産後のケア

産後の出来事

さあ、いよいよ退院です。赤ちゃんを囲んでの楽しい生活の始まりです。
毎日が新たな驚きと歓びの連続でしょうが、わからない事や落ち込んでしまう事もあるかもしれません。
お困りの事があれば、いつでも連絡して下さい。
産褥とは、お産が終わってからお母さんの身体が妊娠前の状態に戻るまでの期間をいい、およそ6〜8週かかります。この間に 起こる出来事について表にまとめるとともに、生活指導やマイナートラブルに対する対処法についてもご説明いたします。

  1. 産後の経過
  2. 産褥期の生活指導
  3. 乳房の手入れ

    本田レディースクリニックでは、ひとりでも多くの赤ちゃんが母乳で育つことを願い、母乳育児を推進しています。
    お産後の入院中は、お乳が飲ませやすいように抱き方、飲ませ方から支援いたします。また必要に応じてマッサージも行います。もちろん困ったときはすぐにスタッフに尋ねたり、診てもらったりできます。
    しかし、退院してお家に帰ってしまうとなかなかそうはいきません。母乳育児を楽しくするためには乳房のトラブルがない事も大切ですが、あせらない、あきらめない、こころのゆとりも育児には大切です。
    そんなさまざまなお乳のトラブルをできるだけ早く解消するために助産師が豊富な経験をいかして丁寧なやさしい指導をさせていただきます。

    1. 母乳分泌は、お母さんの精神状態に影響されます。明るくリラックスした気持ちで毎日を過ごしましょう。
    2. 授乳前には、基底部マッサージ、乳頭マッサージを行いましょう。
    3. 吸わせる時間は、長くても左右5分ずつを2回(合計20分)までとしましょう。
      ※乳首が痛い人、傷ができた人は、無理をせずに搾乳を中心にしましょう。痛みがなくなれば、少しずつ吸わせる時間を長くしていきましょう。
    4. 母乳は約2時間半毎につくられますから、3時間ぐらいで搾乳できるようにしましょう。
    5. 授乳後残った母乳や、赤ちゃんが飲まなかった時は、楽になるまで搾っておきましょう。
      ※母乳の分泌が多すぎて困る人は、搾りすぎないように注意しましょう。毎回70ml以上も捨てなければならないようでしたら一度ご相談下さい。
    6. 乳房がはって痛みを伴ってきたときは、基底部マッサージをゆっくりと5回ほど行い、乳房内の循環を促進しましょう。
    7. 分泌量が安定してきたら、少しずつ基底部マッサージの回数を減らしていき、最終的にはしなくてもよくなります。
    8. 分泌量がなかなか伸びない方は、基底部マッサージの回数を増やし(5回ぐらい)授乳回数を増やしましょう。
    9. 次のような乳房のトラブルがある方は、病院に電話してください。
      • 乳房が張りすぎて痛む
        乳房が赤くなって痛む
        乳房にしこりがある
        お乳の分泌が悪い
        乳首が痛い・乳首に白い斑点の様なものができている赤ちゃんがうまく吸わない
        など乳房がはって痛い、硬いあるいはしこりがある
      • 乳頭の形が陥没、扁平である
      • 断乳したい
      • 育児や家事がすごくゆううつである
      • すごくいらいらして、なにかにあたりたくなる
      • その他、育児に関することなど
  4. 運動
  5. 散歩は気分転換になるだけでなく、子宮復古(子宮が妊娠前の状態に戻ること)や全身状態の回復を助けるのでおすすめです。

    産褥体操では、妊娠中や分娩で弛んだ筋肉を引き締め、全身の血行をよくし、子宮復古を助けるだけでなく、精神的なリラックス効果も期待できます。短時間であっても毎日行うことが大切で、できれば3〜6ヶ月間は続けたいものです。
    運動時には、乳房の振動痛・母乳漏れ・尿漏れなどが問題になることがありますが、乳房の振動痛にはブラジャーの着用を、母乳漏れには母乳パットを、尿漏にはナプキンを使用することでそれぞれ対処できます。

  6. 入浴
  7. バスタブにつかる入浴については、いつまでダメでいつからよいという規定はありません。悪露さえ少なくなれば可能ですが、 あくまでも清潔な最初のお湯であるべきでしょう。

  8. 風疹ワクチン
  9. 妊娠時の検査で、風疹の免疫抗体がなかったり低抗体価であった人は、避妊期間を有効に使って風疹ワクチンの接種を 受けましょう。
    風疹ワクチンは生ワクチンのため、妊娠中には接種することができません。妊娠の可能性のない産褥期や月経期間中に接種され、2〜3ヶ月の避妊が指導されます。本田レディースクリニックでも接種していますが、予約制となっていますから、ご希望の場合は あらかじめ連絡を取って下さい。

  10. 喫煙
  11. 妊娠中の禁煙に成功した人は、引き続き禁煙を守りましょう。喫煙の影響は大切な赤ちゃんが急死してしまう乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクが4〜5倍になるとされています。母性に目覚めて、“喫煙は百害あって一利なし”と悟りましょう。

  12. マイナートラブル
  13. 悪露

    はじめ赤色であった悪露は、日にちが経つにつれて褐色から黄色・白色へと変わっていきます。この悪露の変化には個人差があって、かなり早く白色になる人もいれば、1ヶ月健診の時にまだ赤みの残っている人もいます。流れるような出血であるとか、血の塊が出ない限り、心配せずに経過をみて下さい。

    月経の再開時期について

    産後に月経が再開する時期には個人差があります。産褥期(産後6週間以内)に月経の再開する頻度は、母乳哺育の人では約15%、人工哺乳の人では約40%とされています。時々ビックリして外来を受診される方がみえますが、出血の量がふだんの月経くらいで1週間程度で終わるのであれば、月経が始まったと考えて様子をみてもよいでしょう。出血がふだんの月経より明らかに多い場合やダラダラ長く続く場合は受診して下さい。

    晩期子宮出血

    退院後数日〜数週間経って多量の子宮出血をきたすことがあります。これは、子宮の胎盤付着面にできた血栓が溶けることによって起こる出血で、速やかに治療を開始する必要があります。太ももを伝って流れる出血や、血の塊がたくさん出る場合はすぐ連絡して下さい。もっとも極めて稀で、1〜2年に1人の方に起こる程度です。

    発熱

    抗生物質がなかった昔では、産後の発熱は“産褥熱”として恐れられていましたが、現在では重症化する産褥性器感染症は比較的稀となっています。

    乳腺炎

    現在では、発熱の原因として一番多く認められるのは、お乳の炎症(乳腺炎)で、1.お乳が赤く腫れていて、2.触るとしこりがあり、3.押さえると痛いといった特徴があります。乳房マッサージとお薬が必要ですから、連絡の上、来院して下さい。 また、このような時は、体温を腋の下で測定すると、炎症のあるお乳が近いので、高く測定されてしまいます。肘関節や舌下で測定するのが望ましいでしょう。

    腎盂腎炎

    風邪症状がなく、お乳に問題がないのに、40℃近くの発熱を認めた場合は、腎盂腎炎を疑わなければなりません。
    背中の腎臓のあたりを叩くと痛みがあることを特徴としていますが、治療が必要ですから直ちに来院して下さい。

    産褥子宮内膜炎

    風邪症状がなく、乳腺炎でも腎盂腎炎でもない場合は、産褥子宮内膜炎を疑う必要があります。通常、下腹痛があり、汚い悪露が出ます。清潔操作が徹底している現在では少ない病気となってきていますが、症状があれば来院して下さい。

    便秘・痔

    母乳に水分が取られるため、便が硬くなり便秘になりやすいので、水分を十分摂りましょう。よくならなければ、お薬をさし上げますから、外来を受診して下さい。 痔は、便通を整え入浴(座浴)をすることによって、お産後2〜3ヶ月で自然によくなりますから、あまり心配しないで下さい。苦痛を伴う場合は、お薬をさし上げますから、外来を受診して下さい。

    子宮下垂

    子宮を支えている靱帯などの組織が弛んだために、歩行時などに“股の間に何かを挟んだような違和感”を受けることがあります。子宮が下がったための症状ですが、数ヶ月で軽快しますから、心配しないようにして下さい。排尿をがまんしたりせず、  便秘にならないように注意し、中腰で重いものを持ち上げるような動作も避けましょう。

    尾骨部の痛み

    座った時や排便の時に肛門のうしろに痛みを訴えることがあります。とくに赤ちゃんが大きかった時に起こりやすいのですが、尾骨の関節が過度の圧迫を受けたためです。日にちが経てば自然に改善しますから様子をみて下さい。

    恥骨結合部の痛み

    陰毛の部分に硬く触れる骨(恥骨結合)が歩くたびに痛んだり、押さえると痛んだりすることがあります。通常は安静を保つことで、数日で改善しますが、重症(恥骨結合離解)の場合は、整形外科の専門的治療(特殊なコルセットの着用や牽引・牽垂など)が必要となります。

    尿漏れ

    お産の時に赤ちゃんの頭で膀胱や神経が過度に伸展を受けたことと、産褥期に女性ホルモンが生理的に低下するために起こります。しだいに卵巣の機能が戻ってくるにつれて症状は改善しますから様子をみて下さい。

    妊娠線

    妊娠中にできた妊娠線は、しだいに赤みが薄れ白くなってきます。ただし、残念ながら消えることはありません。
    “女の勲章”と思ってあきらめて下さい。次回妊娠時には、体重増加に気をつけて、今回の白いひび割れの上に新しい赤いひび割れを作らないよう頑張りましょう。

    腹壁のたるみ

    大きな赤ちゃんが入っていたお腹の皮ですから、“たるみ”は誰でもあります。しだいに改善してきますが、産褥体操などの運動を積極的に取り入れて、シェイプアップをはかって下さい。授乳期はとかく空腹感が出ますが、間食に気をつけないと、そのまま脂肪のたるみにならないともかぎりません。気をつけましょう。

    目のかすみ

    お産の後は一時的に目のかすみをきたすことがあります。自然に改善しますが、テレビの見過ぎや、細かい文字を読むようなことを避け、時々遠くの山々を眺めるような習慣をつけるとよいでしょう。

  14. 1ヶ月健診について
  15. 退院時に予約をしてください。診察カードと母子手帳をご持参下さい。

    1. 助産師・看護師が退院後にお困りのことがなかったかどうかをお尋ねいたします。わからないこと・心配なことがあればお申し出下さい。
    2. お母さんは院長による産褥健診を受けていただきます。
    3. お乳のトラブル等があれば、助産師が対応いたします。受診中に授乳をご希望の方は、別室をご用意いたしますからお申し出下さい。
    4. 医師より指示された場合に、退院後1週間以内に体重チェックをする場合があります